工事ルポ

白砂青松が続く駿河海岸で景観に配慮した離岸堤を据え付ける

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新しい有脚式離岸堤を開発

静岡県駿河湾は、相模湾、富山湾と並び日本三深海湾のひとつであるが、最も深いところでは水深2500mにもなり、日本で最も深い湾である。また、白砂青松と富士山の取り合わせは有名であり、多くの方が写真や絵画で記憶されていることであろう。

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その駿河湾では、1959(昭和34)年の伊勢湾台風や1961(昭和36)年の第2室戸台風による被害を契機に、1964(昭和39)年より海岸侵食・高潮対策が進められている。また近年では、環境保全意識の高まりを受け、人間だけではなく様々な生き物に優しい海岸保全事業が望まれるようになり、1987(昭和62)年より全国に先駆けて「有脚式離岸堤」を設置することになった。

「有脚式離岸堤」とは、海底に打ち込んだ鋼管杭で離岸堤の函体(四角い箱状のコンクリート構造物)を支える構造物で、消波性能と魚礁効果の両方の発揮を期待されている。今までにも数多の離岸堤が開発され、この海岸にも据付けられてきたが、当社は消波性能を維持しつつ景観を損ねず、環境にも配慮した函体構造である「バリアウィンT」を開発した。そして、このバリアウィンTが初めて据え付けられることになったのが「平成25年度 駿河海岸一色離岸堤工事」である。

バリアウィンTの性能

昨今の海域制御構造物は、海浜安定化や背後地の防護等従来の保全機能に加え、構造物背後の静穏域を利用した海洋性レクリエーションや水産資源の有効利用など、利用と環境の調和が求められるようになっている。当社が開発したバリアウィンTは、求められる消波性能を満足し、波力の低減効果を発揮することは当然のことながら、「透過性」構造による海水交換の促進効果や「低天端」構造による自然景観の保持機能を併せ持つ海域制御構造物である。

バリアウィンTは鳴尾研究所や名古屋支店を中心に開発したが、代表して藤原隆一執行役員土木事業本部総合技術研究所長に開発経緯や特徴について伺った。

「バリアウィンTの開発のポイントは、離岸堤工事発注までの限られた時間の中で、『独自性の高い、競争力のある構造物』にできるかにありました。そこで基本形状をCADMAS-SURF*と呼ばれる最先端の数値シミュレーションで検討し、通常の水理模型実験に比べ短時間でこの段階をクリアしました。その後、設計に必要な項目を水理模型実験によって詳細に検討し、(一財)土木研究センターの建設技術審査証明を取得することで、競争入札要件をクリアしました。このようにして、一般の開発期間の半分ほどの時間で、商品として売り出せるまでの構造物を開発することができました」

それでも、「函体を無事に設置したと聞いて、ようやく肩の荷が下りた気がした」とも話す姿は開発者ならではの本音であろう。

CADMAS-SURF* :一般財団法人沿岸技術研究センターが開発した数値波動水路プログラム。流体の基礎方程式であるナビエ・ストークス方程式を数値的に解くものであり、VOF法と呼ばれる自由表面の処理法に基づく計算手法。波、流れ、地盤の相互作用を伴う複雑な現象の数値シミュレーションを迅速かつ容易に行うことができる。

気象・海象を見極め、限られた時間で工事を進める

当社が受注した「平成25年度 駿河海岸一色離岸堤工事」は、設計と施工の両方を受注者が行うもので、施工フローは別図のとおりとなる。

 作業は大きく陸上と海上に分かれており、陸上では製作ヤードでバリアウィンTの函体を製作する。海上では、バリアウィンTの鞘管を差し込む鋼管杭(バリアウィンTの脚になる部分)の打設、中詰ブロックの設置、大型起重機船による函体の据付け、グラウト注入などが主な工事内容である。

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陸上作業での一番のポイントは、バリアウィンTをいかに高精度で製作するかにある。一つの函体の大きさは、幅10m、高さ8.2m、長さ19.5mで重量は980tもの構造物である。また、海上で事前に打設した鋼管杭に差し込むことになるので、高い精度が求められるのである。

一方、海上作業では、「脚」となる鋼管杭の打設精度と函体を所定の日程で据付けられるかがポイントとなる。特に、バリアウィンTの据付けには大型起重機船を使用するので、気象・海象と作業船の拘束期間との兼ね合いから、その日程は自ずと絞られてきてしまう。バリアウィンTの据付け場所は、航空自衛隊静浜基地に近いことから、45mの航空制限が設けられているからだ。重さ980tもの函体を吊上げるには、1400t吊の大型起重機船が必要となるが、その際のブームの高さは100m以上と航空制限を遥かに超えてしまうので、基地の飛行が長期間休止する時期に合わせて据付けることが、作業船の回航費や使用料からも合理的である。また、北風の吹く冬の時期は海象条件が比較的良いことから、必然的に年末年始に据付けを行うことになるのである。

しかし、自然が相手なのでこちらの予定どおりにはなかなか進まない。様々な要因が重なって、最初の函体の据付けは2016年1月2日、最後の7函目の据付けは、起重機船回航予定日の前日(1月16日)という際どさであった。(4月21日に海上作業は終了)

今回の反省点を活かし、より良い製品への改良を

この工事の工期は、2016年9月30日までであるが、概ね主要な工種を終えた段階で、野口博之作業所長に話しを伺うと、「今振り返ると、あっという間に終わったような気がします」と話す。しかし、「陸上での函体製作と海上での鋼管杭打設・洗掘対策などを5ヶ月間平行作業で行うということは、精神的にも肉体的にもかなり厳しいものでした」とも語る。

それでも「他社との競争に勝つためには、構造や施工方法などまだまだ見直す所がある」と言い、次なる工事に向けてバリアウィンTの改良に意欲を示す。

より良い製品にしていくこと。それには野口所長が苦労して仕上げた工事でしか得られない知見が必要となる。仕事に妥協をすることのない野口所長の目線の先には、既に進化したバリアウィンTが見えているのかもしれない。

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工 事 名 平成25年度 駿河海岸一色離岸堤工事
発 注 者 国土交通省 中部地方整備局 静岡河川事務所
工事場所 静岡県焼津市一色地先
工  期 2014年3月25日~2016年9月30日
担 当 者 現場代理人)仲 保夫  監理技術者)野口 博之、磯部 昌吾
担当)瀬頭 孝太、木山 智裕、中村 範彦
工事概要 実施設計 1式

工場製作工 (鞘管製作 42本)

海上輸送工 (鋼管杭輸送 42本)

函体製作工 (函体製作 7函)

既製坑工  (鋼管杭打込 42本:φ1,300 L=22.5m x 21本、L=24.5m x 21本)

函体据付工 (函体据付 7函)

仮設工   (函体製作ヤード 1式、鋼管杭打設用仮設 1式)

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