工事ルポ

博多港(中央ふ頭地区)岸壁改良工事

クルーズ船の寄港が日本一多い博多港

ここ数年、訪日外国人に焦点を当てたテレビ番組もよく目にするが、日本政府観光局の統計資料によると、東京オリンピックが開催された1964(昭和39)年に35万人だった訪日外客数は、2016(平成28年)には約68倍の2,400万人となっている。

国土交通省が2016年3月30日に発表した「明日の日本を支える観光ビジョン」において、2020年には訪日外国人旅行者数を4,000万人、2030年には6,000万人と、今までを遥かに上回るペースで訪日観光客を増やす目標が掲げられている。

「世界が訪れたくなる日本」として訪日観光客を一層増やすためには、ソフト・ハード両面の整備が欠かせないが、その施策のひとつにあるのが「クルーズ船受入の更なる拡充」である。世界のクルーズ人口は2015年で2,320万人と10年前の約1.7倍に急増しており、中でもアジアのクルーズ人口がこの10年で約2.7倍と特に大きな増加を示している。

このようにクルーズ需要が増大するなか、近年クルーズ船の大型化が進み我が国の既存岸壁では係留が困難なケースも出てきていることから、全国各地でクルーズ船の受入環境の整備が始まっている。クルーズ船寄港回数が日本で一番多い博多港でも、大型のクルーズ船の寄港が可能となるよう岸壁を延長する事業が行われており、当社は2017年2月から工事を担当している。

既存の中央埠頭からはみ出して停泊する大型クルーズ船。既存ドルフィンと先行して設置したジャケット式岸壁の間とその沖合いが当社の施工区域

既存岸壁と先行して設置されたジャケット式岸壁の間に鋼管杭を打設

博多港における外航クルーズ船の受け入れは、入国手続きを行う「クルーズセンター」がある中央埠頭が担っており、船長が311m、13万t級のクルーズ船が接岸することができる。しかし、2015(平成26)年6月から船長が347.8m、16万t級の「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が博多港に寄港することとなり、それに対応するために国土交通省九州地方整備局によって岸壁改良工事が行われることになったのである。

この岸壁改良工事は2016(平成28)年8月から開始されている。初弾工事で既設ドルフィン*の沖側に60mのジャケット式岸壁を据え付けており、現在「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」の接岸が可能となっている(写真をご参照ください)。当社が受注した工事は、既存岸壁と初弾工事で設置した岸壁の間へのジャケット据付が含まれているが、その施工は少々難しい。正確には、鋼管杭の打設やジャケットの据付時において、作業船を係留するアンカーをどこに打つかという作業計画の立案に頭を悩ました、ということである。

工事を担当する青山政一所長は、「岸壁と岸壁の間に鋼管杭を打設する際やジャケットの据付を行う際には、作業船のアンカーをどこに打つかを考えなければ施工に入れません」と話す。供用中の岸壁のすぐ近くでの作業となるので、綿密な事前準備が必要だ。

ドルフィン* :港湾内の水域に杭などを打ち込んで作る係留施設

鋼管杭の打設状況。打設時は、汚濁防止枠を使い打設による濁りを拡散させないようにする
すぐ近くに大型クルーズ船が停泊する
鋼管杭打設時の杭打船とアンカーの位置

大型起重機船で全長70mのジャケット据え付ける

取材当日は1基目のジャケットの据付が行われた。北九州市の若松で製作されたジャケットの運搬は、台船の回航に始まり、台船への積込みにジャケットの固縛、関門航路を通って博多港錨泊地まで約3日を要する。その後中央ふ頭まで移動し、固縛を解除してジャケット据付の準備が完了するのであるが、台船の回航から起算すると都合4日の工程となる。

この工事で据え付けるジャケットは2基で、1基ずつ連続する2日で終える計画である。安全面に加え、大型起重機船手配の関係からも、2日間の気象海象条件が整うことが絶対条件である。

ジャケットの海上運搬の様子
地切りの瞬間。ジャケットが台船から浮く
台船からジャケットを吊り上げ、移動開始
ジャケットの据付を待つ14本の鋼管杭

雲ひとつない好転に恵まれたこの日は、午前8時半に岸壁に接岸している台船から700t吊の起重機船でジャケットの吊り上げを開始。静かに上昇するジャケットが蒼い空に浮かぶ姿は美しい。

据付場所までは約300mほどであるが、1時間ほどかけて接近し慎重に据付のタイミングを待つ。博多港は船舶の入出港が多く、その船が航行する際に生じる航跡波によって起重機船に動揺がおきるので、ジャケット据付のように精度を要する作業においては、動揺が収まるのを待たなければならない。

据付にあたっては、岸壁上で測量しながらジャケットの位置を誘導しているが、このような大型の構造物を据え付けるには、起重機船のオペレーターの技術によることが大きい。一度据え付けたものの、職員から「2㎝動かして」というようなシビアな要求が出されており、その僅かな距離を微妙に調整して据付が無事に完了した。

青山政一所長は「設計の許容値の半分程度の精度で据え付けています。ジャケット据付は起重機船のオペレーターの技量によるところが大きいですが、元請会社として納得できる精度での据付を求めました」と語る。

いよいよ据付。作業員が目を凝らす
鋼管がレグに入っていく
所定の位置に据付が完了
明日は右に見える鋼管杭にジャケットを据付ける

博多港にはほぼ毎日大型クルーズ船が入港し、ほとんどが朝から夕方まで係留しているが、このジャケット据付の2日間だけは入港調整をしていただいている。それゆえ、工程の遅延は許されない。旺盛なクルーズ船需要に応えていくためには、綿密な計画と果断な実行が重要となる。ジャケット据付が終わっても、残りの工程は多岐にわたっており、気を抜くどころか益々忙しくなると青山所長は言う。

これから寒さが厳しくなる季節を迎えるが、無事に完成して春には多くの観光客の笑顔があふれる様子を見られることを期待したい。

青山政一所長
作業所のメンバー  左から渡邉 哲也(工事担当)
柴田 智基(工事担当)、青山 政一(監理技術者)
高下 徳昭(現場代理人)、乾 直人(主任技術者)
翌日は雨中の据付でしたが、無事に完了
1基目のジャケットの横に係留するクルーズ船
工事名称 博多港(中央ふ頭地区)岸壁改良工事(第2次)
工事場所 福岡市博多区沖浜町地先
工期 2017年3月2日~2018年2月16日
発注者 国土交通省九州地方整備局
施工者 東洋・不動テトラ特定建設工事共同企業体
工事内容 岸壁
共通工
標識灯設置・管理・撤去 4基
本体工(鋼杭式)
鋼管杭打設 28本
ジャケット製作・運搬・据付 2基
上部工
<床版>床版製作・据付 110個
<渡版>渡版製作・据付 16個
<間詰>間詰コンクリート 一式
<地覆>地覆コンクリート 一式
<上部>上部コンクリート 139m
付属工 一式
舗装工 一式