- TOYO HISTORY
- LANGUAGE

大型クルーズ船入港のため、航路を広げる
和歌山下津港は、和歌山市中心部にある「和歌山本港区」・「和歌山北港区」、和歌山市南部と海南市にある「和歌浦・海南港区」、海南市にある「下津港区」、それに有田市にある「有田港区」で構成される国際拠点港湾である。また、この地域には製鉄所のほか石油精製や鉄鋼業などの工場が多く進出しており、和歌山県の経済はもとより関西経済圏を担う重要な拠点となっている。
この和歌山下津港では、コンテナ船やバルク船の大型化への対応や災害時の海上物流拠点としての機能確保を図る目的などから、国際物流ターミナル整備事業が実施されているが、これに加えて大型クルーズ船の寄航にも対応するため航路の拡幅工事が行われている。
我々建設会社は、ビルを建てるといった「新たに造る」工事を一般的には生業としているが、このような既存の建造物を撤去するといった工事を請け負うことは数少ない。もちろん、建物を解体して新たにビルを造るといったことはあるが、港湾構造物を撤去することは稀である。当社はこのように稀な防波堤撤去工事を2018年度に続いてこの6月に受注、これから工事の佳境を迎えようとしている。

海上工事ならではの難しさ
この工事は、和歌山本港地区にある中埠頭から伸びる防波堤の先端部約90m部分を撤去し、水深-10mにおいて航路幅を拡幅するもので、8月末の取材時は防波堤の上部コンクリートの撤去作業中であった。
これまでに、捨石マウンドの洗掘を防止するための三方錘ブロックや根固ブロックの撤去が完了しているが、このブロックを撤去するためには潜水士によるケミカルアンカーの打設と吊ピースの取り付けが必要となる。
石田和男所長は、「ブロックが設置されている場所は、-4mから-7m程度と比較的浅い水深で、事故もなく作業は順調に進みました」と話すが、潜水士は姿が見えない海中で作業するうえ、送気という陸上ではない行為もあってリスクは高い。海上工事ならではの難しさである。
現在、バックホーのブレーカーで防波堤の上部コンクリートの小割りを行い、その小割りしたコンクリートガラをクレーン付台船で仮置場所まで運搬する作業を行っているが、小割りにしたコンクリートガラの海中への落下を防止するために防護設備を設置するなど、万全な態勢を整えている。
取材当日は、秋雨前線の影響で雨が降ったり止んだりといった空模様であったが、作業は行っていた。
「海の現場では、気象・海象の状況によって作業中止基準以下でも作業ができないことがあります。これは、施工場所の地形や防波堤といった港湾施設の配置などにも影響を受けるからです。この工事でも気象情報を収集するとともに、和歌山下津港に精通している地元協力会社の職長や船長と協議して作業の可否を判断していますが、とりわけ船長の意見は大切にしています」と石田所長は言う。このあたりも海上工事ならではの難しさであろう。



これから工事の山場を迎える
工事は今のところ順調に推移しているが、これからが山場だ。「10月下旬に上部コンクリートを撤去したケーソンの撤去、仮置きを行います。ケーソンを運搬するには、ケーソンに吊ピースを取り付けるのですが、このケーソンはおそらく昭和30年から40年年代に造られたものですので、強度や構造などに不明な点があります。事前調査を基にした検討を行い、安全にケーソンを撤去、仮置きする段取りはできていますが、海象は静穏な期間が最低でも数日間は続かなければ作業はできません」と石田所長は話す。秋も深まりつつある10月下旬ともなれば、夏に吹いていた南風ではなく、北からの風に変わり和歌山下津港は作業をするには絶好の条件となるので、工程をここに定めたのである。なお、ケーソンの重量は1函あたり1,400トンであるが、これを同じ重量の1,400トン吊の起重機船で仮置場所まで移動させる計画だ。これは、ケーソンを海中から完全に吊り上げるのではなく、ケーソン自体の浮力を利用して海面を移動させることで可能となるのであるが、こういったことは海上工事ならではの特殊性と言えるかもしれない。
また、供用中の港での作業であることから、荷役業者の方々や就航しているフェリーとの連絡調整も欠かせない。「港を利用する方に迷惑をかけないことが大事」であるという意識も港湾工事を行うものとして必要不可欠なものだ。
これからも無事に作業を進め、来年秋に17万トン級の大型クルーズ船を迎えられるようにしたいと願うばかりである。
※職員の写真以外は8月の晴天時のものを掲載



工事名称 | 和歌山下津港本港地区泊地(-13m)拡幅工事 | ||
---|---|---|---|
工事場所 | 和歌山市湊薬種畑地先 | ||
工期 | 2019年6月3日~2020年2月17日 | ||
発注者 | 国土交通省近畿地方整備局 | ||
施工者 | 東洋建設株式会社 | ||
工事概要 |
構造物撤去工 上部コンクリート撤去1,051㎥、ケーソン撤去仮置6函 根固ブロック撤去仮置145個、三方錐ブロック撤去仮置150個 被覆石撤去仮置686㎥、基礎捨石撤去仮置6,860㎥ |
||
浚渫・土砂投入工 グラブ浚渫4,333㎡(純土量)9,072㎥、(扱土量)11,605㎥ 土運船運搬・トレミー投入(純土量)9,072㎥、(扱土量)11,605㎥ |
|||
基礎工(堤頭部復旧) 捨石荒均し232㎡ |
|||
被覆・根固工 被覆石262㎥、被覆石均し320㎡、根固ブロック据付17個 三方錐ブロック据付18個 |
|||
雑工(ケーソン仮置場) 基礎捨石3,715㎥、捨石荒均し1,121㎡ |