工事ルポ

平成31年度 別府港(石垣地区)防波堤築造工事外1件

国際観光温泉文化都市「別府」の海の玄関口を整備

大分県東部のほぼ中央に位置する別府市は、言わずと知れた日本有数の温泉地であり、年間に800万人以上の観光客が訪れる。その海の玄関口にあたるのが別府港で、現在1日7便のフェリーが就航しており、約815万tのフェリー貨物を取り扱っている。(国土交通省九州地方整備局資料による)
また、別府港は「別府国際観光港」とも呼ばれており、近年は大型クルーズ船の寄港も増加している。このクルーズ船は、2011(平成23)年から供用開始された石垣地区にある旅客船埠頭に接岸するが、この埠頭を波浪から守る防波堤の整備は継続されている。
当社は、2018(平成30)年度に続いて防波堤築造工事を受注、2019(令和元)年11月上旬に926tもの重量があるケーソンの据付けを終えてひとつの山場を越えたところであるが、上部工や消波ブロックの据付けなど、細かくかつ気の抜けない作業が続いている。
一方、当該工事はICTモデルの活用工事であり、また若手技術者の配置を評価する工事でもある。今回は、この2つのテーマについて取り上げることとした。

現場位置図

見えない海中の状況を可視化する

この工事の特記仕様書には、①3次元起工測量*、②3次元数量計算、③ICTを活用した施工、④3次元出来形測量、⑤3次元データの納品という5つの建設生産プロセスにおいてICTを全面的に活用する、と明記されている。従来、海中の測量は音響測深機で行われていたが、それは「線状」のデータ取得に留まっていたことから2次元の図面として表されていた。これに対し、今回指定された3次元測量では、ナローマルチビームという測量機械を使う。最大256本の音響ビームを扇状に受発信することにより、海底を「面的」データとして取得し、非常に精緻な図面として表すことができるのである。そして、この測量結果を元に断面図を描き、体積を算出するのが「3次元数量計算」にあたる。ただし、計算方法はまだ確立されておらず、コンサルタント会社と何回も意見交換をしたとこの工事の現場代理人である高下徳昭所長は話す。
 将来的にはこのような測量や数量計算がスタンダードになるであろうが、その一方で「計算結果が本当に正しいか確認できるのが技術者として求められる能力です。ICTの進化によって精度は高まっていくと思いますが、基礎となる考え方などは若い職員に教えていかなければならないと考えています」と高下所長。ICTを活用しつつも、技術者としてのプライドを持つことの大切さを示したのであろう。

起工測量* 工事着手前に行う測量。着手前の現場形状を把握することで設計変更等に必要な数量算出が可能となる。

シングルビームの音響測深機で作成した図面(左)とナローマルチビームによって作成した図面(右)
3次元数量計算の例
捨石投入作業支援装置の画面。左下手前は電子黒板

ICT施工は、捨石投入と消波ブロックの据付けで実施。捨石の投入には、GPS(Global Positioning System、全地球測位システム)を利用した「捨石投入支援システム」を導入、精度の高い投入を実現している。また、出来形測量については、海中はナローマルチビームで行い、視認できる部分についてはドローンによって行うことになっている。磯部昌吾主任は「現場で行う測量作業が減っているのは間違いない」と話すように、ICT技術の活用が省力化に貢献することは大であり、一層の進化が期待されるところだ。

別府港防波堤の構造図
ケーソンの据付け状況。既存防波堤上で当社職員が誘導しているのが見える

若手技術者への期待と育成への使命感

もうひとつのテーマである若手技術者の配置については、「50代半ばの私の他は、11年目、4年目と新入社員であり、非常にバランスがいいと思います」と高下所長。所長は主に発注者や関係先との対応にあたり、現場管理の実務は11年目の磯部主任と4年目の野田龍之介係員が担っているとのこと。
高下所長は、野田係員に対して「一級土木施工管理技士を受験していて、合格すれば次は現場代理人を務めることになります。ですから、この工事では現場管理全体の勉強をして、経験を積んでいってほしいと思います」と期待する。また、磯部主任は新入社員である堂下幹生係員に対して「まずは、現場に興味を持ってもらい楽しんでもらえれば」と話す。その上で「仕事は一緒にやっていますが、自分で考えて出来るように指導していています。また、決まったサイクルで管理できるものなど、任せられる仕事はできるだけ任せて、自信を持たせるようにしています」
磯部主任は前年度もこの別府港で仕事をしているので、段取りも熟知しており教育する立場として最適であろう。

磯部主任(左)と高下所長

一方、指導を受ける側の一人である野田係員は、「ケーソンに設置する吊足場の設計を任せていただき、大変いい経験になりました」と明るい表情で話してくれた。また、資格取得後に現場代理人といったポジションにつくことで責任が重くなることについて、嬉しいことに「楽しみであり、またやり甲斐を感じる」と断言した。堂下係員の教育に際しては、「自分で考える方が身に付く」として細かくは教えない方針としているそうだ。
そして、堂下係員自身は「まだ何も分からない状況」としながらも、「次の日の工程、段取りを自分で考えて行動をするようにしている」と言い、また「この現場にいるうちに、基本的なことは当たり前にできるようになりたい」と目標を話してくれた。
若手の育成は、当社だけでなく建設業界全体の重要な課題である。この工事のようにバランスの取れた職員構成がベストであるが、全ての工事に当てはめるのは難しい面もある。それでも、若手に仕事を「任せる」ことで「責任感」が芽生え、その結果「成長」に結び付くはずであり、今後彼らが一人前の技術者として現場を切り盛りする姿を一日も早く見てみたいと思う。

野田係員(左)と堂下係員
野田係員が中心となって作成した図面
協力会社と作業内容について打ち合わせをする堂下係員
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作業所のメンバー
左から堂下幹生(工事担当)、高下徳昭(現場代理人)、磯部昌吾(監理技術者)、野田龍之介(工事担当)
工事名称 平成31年度 別府港(石垣地区)防波堤築造工事外1件
工事場所 大分県別府市大字北石垣地先
工期 2019年7月12日~2020年3月9日
発注者 国土交通省九州地区整備局
施工者 東洋建設株式会社
工事概要 標識灯移設・管理 2基
灯浮標設置管理・撤去 4基
基礎工(基礎捨石) 46.4m
被覆・根固工 1式
本体工(ケーソン据付) 1函
本体工(ケーソン仮置) 4函
上部工(上部コンクリート) 15.2m
消波工 1式
仮設工(ケーソン仮置場) 1式
設備工(西大分-7.5m岸壁) 1式