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令和元年台風19号の被害を契機に緊急治水対策が開始
毎年のように繰り返される豪雨災害。狭隘な国土に急峻な地形が多い日本は、昔から一たび大雨が降れば河川の氾濫が起きており、時の為政者はいかにして洪水から民や田畑を守るか腐心してきた。今でもよく知られているのは、武田信玄の信玄堤、豊臣秀吉による淀川沿いの文禄堤、濃尾平野の輪中堤などであろう。また昭和以降では、荒川放水路や狩野川放水路といった河川からの分水など、様々な治水対策が講じられてきた。
しかし、地球温暖化の影響からか、近年は特に集中豪雨による河川の氾濫、土砂災害が頻発するようになっている。
今回の取材対象の那珂川もその一つで、2019(令和元)年10月に東日本に来襲した台風19号により、上流から下流部に至るまでの間で数か所堤防が決壊したほか、広い範囲で氾濫が発生した。
このような事態を受け、国、県、市町などが連携して行うことになったのが「那珂川緊急治水対策プロジェクト」である。
国土交通省関東地方整備局常陸国道事務所のホームページには、このプロジェクトの概要や記者発表資料が掲載されており、「多重防御治水の推進」「減災に向けた更なる取組の推進」の二つを柱として行うとしている。
一つ目の「多重防御治水」とは、①河道の流下能力の向上、②遊水・貯留機能の確保・向上、③土地利用・住まい方の工夫を組合せて対応するものであり、二つ目の「減災の取組み」とは、関係機関等が連携し、円滑な水防・避難行動のための体制などの充実を図るというもの。当社が施工する工事は一つ目の「多重防御治水」にかかるものであり、準備期間を経て出水期が終わった11月から本格的に工事に着手した。
ICT土工による省力化の推進
この工事の主な工種は当初、掘削工75,800㎥、かごマット40,000㎡、根固ブロック製作・運搬・据付け約1,770個などであったが、掘削工125,900㎥、かごマット約50,300㎡、根固めブロック約2,160個と大幅に数量が変更されており、工期内に完成させるのは大変厳しい状況だと現場の北川淳一所長は話す。
それでも、「緊急性の高い災害復旧工事で、地元の方々の高い期待もありますので、ICTを全面的に活用し、出来ることは全て行い、工程を短縮すべく工夫しています」と現場を切り盛りする所長として、力強い発言をしてくれた。
例えば、3次元測量では無人航空機搭載型レーザースキャナーやRC(ラジコン)ボートによるマルチビームを使った起工測量を実施、その後3次元起工測量点群データの取得と3次元設計データの作成を行い、3次元マシンコントロールバックホウとブルドーザーによる施工を進めている。
なお、マシンコントロールとは、GNSS(全球測位衛星システム)を利用して建設機械の位置情報、施工情報、現場状況をリアルタイムで計測し、施工箇所の3次元設計データと現地盤データの差分(値の差)を車載モニタに表示して提供することでオペレーターの操作をサポートするマシンガイダンス機能に加え、施工機械の油圧制御技術を組み合わせて設計値に従って自動制御し、施工を行う技術のこと。ICT施工活用工事に指定されているこの現場では、このような建設機械を積極的に使うことで、生産性の向上を図っているのである。
北川所長は、ICT建設機械の効果を「作業効率と安全性の向上」と挙げ、特に「今まで職員が行っていた丁張作業がなくなることは大きく、その分違う業務をできます」と話す。
また、広大な範囲に及ぶ掘削工には施工履歴データを使って出来形の管理しているほか、日々の測量や進捗管理にはGNSS 3次元施工管理アプリを使用することで省力化を図っている。他にも協力会社の職長にタブレットを配布し、デジタル野帳アプリによる情報共有やビデオ会議による遠隔打ち合わせを行うなど、少し前には考えられなかったような手段で現場運営を行っている。
職員や技能労働者の仕事のやり方の変化の度合いは、今後一層加速していくことであろう。
地域の住民が見守り、若手が育つ現場
この現場には所長を含め6名の職員が配属されている。50歳前後の所長、副所長の他は全員20歳代だ。
北川所長は、この現場で若手職員への技術伝承をしていくと明言している。「みな前向きでやる気に溢れる優秀な職員です」としたうえで、「この現場を経験した若い職員が将来色々な現場で活躍できるよう、模範になるようにしたい」と話し、北川所長や髙柳副所長が長年培ってきた技術やノウハウを余すことなく伝えるため、「やれることは何でもやっています」と自負する。
一方、髙柳副所長は「この現場は近くの住民の方からよく見えます。ですから、下手な仕事はできませんし、良いものを造らなければなりません」と気を引き締める。そのために、地域の方との交流を積極的にしているという。「休日には近くの那須岳に登っています。地元のことですから話しのきっかけになりますし、我々に親近感を抱いてもらえれば、より工事の内容や進め方などを理解していただけるようになります。」
また、那珂川は鮎で有名だが、釣り好きの職員も多く、漁業関係者とのコミュニケーションも円滑に進んでいる。工事は何かと近隣住民に負担をかけることが多いが、職員の地道な交流がこの工事の理解促進につながっているのは間違いないようだ。
これから、この地は厳しい冬を迎える。取材当日(2020年11月12日)でさえ、車のフロントガラスに霜がびっしりと付いていたように、都内とは比べようもないほどの寒さだ。
渇水期での施工が常である河川工事の定めであるが、厳冬期での施工を無事に乗り越え、地域の方が安全な日々を送ることのできる暖かな春の到来を待ち望みたい。
工事名称 | R1那珂川右岸小川下流地先低水護岸災害復旧工事 | ||
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工事場所 | 栃木県那珂郡那珂川町小川地先 | ||
工期 | 2020年8月7日~2021年3月31日 | ||
発注者 | 国土交通省関東地方整備局 | ||
施工者 | 東洋建設株式会社 | ||
工事概要 (当初) |
河川土工 掘削工(河道掘削) 43,500㎥ 掘削工(施工箇所) 32,300㎥ |
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法覆護岸工 連節ブロック張(階段ブロック) 1,355㎡ 護岸付属物工 1式 かごマット工(低水護岸) 545㎥ |
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高水敷保護工 かごマット工(高水敷) 39,525㎡ 覆土工 19,800㎥ |
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根固工 根固めブロック乱積(製作・運搬・据付) 705個 根固めブロック層積(製作・運搬・据付) 1,066個 捨石(間詰工) 1,062㎥ |
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付帯道路工 1式 |
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構造物撤去工 1式 |
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仮設工 1式 |